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ザンビア便り第28回 「サタ大統領逝去から大統領補欠選挙までの内政」
2014年10月24日,ザンビアは独立50周年の祝賀ムードに包まれましたが,その4日後,サタ第5代大統領が逝去します。それから大統領補欠選挙が実施されるまでの約3ヶ月間,ザンビアは「政治の季節」に入りました。候補者選定をめぐって与野党双方で党内抗争があり,最大野党が分裂状態となり,選挙では与野党候補の得票差がわずか約2万8000票という大接戦となりました。この期間の内政の動きはかなり複雑でしたので,ここで整理をしてご紹介したいと思います。
1 サタ大統領の逝去
2014年に入ってから健康状態に更なる悪化がみられたサタ大統領は,10月20日に英国,ロンドンの病院に搬送され,同28日深夜に同病院で亡くなります。死因に関する公式発表は未だになされていませんが,以前から前立腺癌や心臓疾患を患っているとの噂がありました。サタ大統領の遺体は11月1日ザンビアに戻り,同大統領の国葬は11月11日に行われました。
2 大統領補欠選挙関連日程の発表
ザンビアの憲法は,大統領が逝去した場合には,副大統領が大統領代行を務め,逝去後90日以内に選挙を行い,大統領を選出すると規定しています。これに従って,10月29日にはガイ・スコット副大統領が大統領代行となりました。また,ザンビア選挙委員会は,11月19日,大統領補欠選挙を2015年1月20日に実施し,その立候補者の受付は12月17日から19日までとすると発表しました。
3 与党愛国戦線(PF)の党内抗争
(1)ルングPF事務総長の罷免決定
与党内の摩擦は,ガイ・スコット大統領代行が,11月3日に,エドガー・ルング法務大臣兼国防大臣のPF事務総長職罷免を発表したことから表面化します。サタ大統領の「個人商店」とも言われていたPFには,従来から2,3のグループがありましたが,サタ大統領逝去によって求心力が失われた結果,グループ間の対立が激化したのです。
ルング支持のグループはこの罷免発表に激高し,3日夜にはルサカ市内住宅地で数百名の支持者が抗議活動を行いました。翌4日にはルング支持者を中心とする党員がPF中央委員会を開催し,スコット大統領代行による罷免決定を覆す旨決定し,スコット大統領代行もこれを認める発言を行いました。
(2)党大会開催をめぐる駆け引き
国葬後,与党内の摩擦はルングとスコットの2グループの間で激化していきます。党内多数派のルング支持グループは,11月13日に中央委員会を開いてルングがPFの大統領補欠選候補となることを決定します。これに対して,スコット大統領代行は,PF候補者は党大会で選挙の上決定されるべきであるとして抵抗します。
業を煮やしたルング支持グループは,17日に中央委員会を開いてスコット大統領代行の党大会実施案を否決し,更に,21日の中央委員会で,スコット大統領代行のPF総裁代行としての職務を停止する旨決定します。これに対して,スコット大統領代行は,21日の中央委員会に出席した議員のうち16名を党員資格停止処分にすると発表し,態度を硬化させます。25日の中央委員会で両グループは話し合った結果,党大会を11月30日に開催することで合意しました。
(3)2つの「党大会」
これで落着と思いきや,党大会で思いがけない事態が待っていました。11月30日にカブエで行われた党大会には,ルング支持者だけが6千名ほど集まり,同日夕刻に挙手による「全会一致」でルングを党総裁及び大統領補欠選候補に選出したのですが,翌12月1日に,スコット支持者その他の党員が同じ場所で同じく数千人を動員して「党大会」を行い,マイルズ・サンパ商業貿易産業副大臣を候補者として選出したのです。
ルング支持のイノンゲ・ウィナ・ジェンダー開発大臣(現副大統領)は,1日に「党大会」が開かれているという報を受けて,党幹部と共にルサカの高等裁判所に出向き,同日昼過ぎに同大会の中止に関する裁判所命令を取り付けます。この迅速な動きがなければ,PF党内の混乱は更に深まっていたかもしれません。この裁判所命令を裏打ちするように,12月3日,高等裁判所は,ルングが正当なPF候補者であると認定します。
11月30日の党大会(挙手によるルング候補の選出) |
12月1日の「党大会」(投票による選出) |
(4)スコット支持グループ最後の抵抗
2つめの「党大会」で総裁及び大統領補欠選候補者に選ばれたマイルズ・サンパは,高等裁判所の判断を不服として最高裁判所に提訴します。最高裁は,同提訴を高等裁判所に差し戻します。これにより,マイルズ・サンパは,イノンゲ・ウィナ等と法廷で議論する余地を得ます。これを受けて,スコット大統領代行は,12月16日,この法廷プロセスが終了するまでPF候補者の指名は認められない旨の書簡を最高裁長官代行に送ります。
ルング支持グループは,このスコット書簡に怒り,16日夜に中央委員会を開き,スコットPF副総裁の解任を決定します。翌17日には,カラバ外務大臣が記者会見で,「閣議としてスコット大統領代行に協力できない。大統領代行の辞任を求める。」と発言します。更に同日,14名の閣僚がスコット大統領代行に対する辞任要求案に賛成します。スコット大統領代行は,これに対して,憲法に従って大統領代行の職務を続ける,脅迫には屈しないとの声明を発表します。
このように両グループの対立が抜き差しならないものになったところで,ザンビア国内の教会関係者が両者の和解に向け調停活動を行います。この調停努力によって,20日,ガイ・スコット大統領代行がエドガー・ルングを大統領公邸に招き,ルングの選挙運動に政府として協力する旨確約しました。これにより,ルングがPF候補者となることが確定し,大統領補欠選挙キャンペーンを本格的に開始したのです。
4 最大野党複数政党制民主主義運動(MMD)の党内抗争
(1)ムンバ党総裁による偽情報
最大野党のMMDでも大統領補欠選候補選びをめぐって摩擦がみられました。11月16日,MMDは全国幹事委員会を開いて,候補者を決定しました。翌日の報道では,MMD総裁のネヴァーズ・ムンバが候補として決定されたと報じられました。しかし,これはムンバ総裁が,意図的にメディアに提供した偽情報だったのです。実際には,同委員会出席の大多数がルピア・バンダ第4代大統領を候補者とすることを支持し,バンダをMMD候補とすることに決定していました。
(2)ムンバの党総裁資格停止とルピア・バンダ元大統領の始動
18日,MMD事務局長は,ネヴァーズ・ムンバが全国幹事委員会の決定と異なる偽情報をメディアに流し,自らをMMD候補と発表したこと等を理由にムンバを党総裁資格停止処分にしたことを発表します。
ムンバは,これを不服として,MMD党総裁の地位保全を求めて高等裁判所に提訴します。
11月27日,ルピア・バンダ第4代大統領は,MMD候補として大統領補欠選挙への出馬を正式に表明し,29日から本格的な選挙キャンペーンを開始しました。
(3)最高裁での逆転判決とルピア・バンダの「変節」
12月10日,高等裁判所は,ネヴァーズ・ムンバの提訴を却下します。ムンバは直ちに最高裁へ上訴します。しかし,18日,驚くべき判決が最高裁からなされます。ムンバを党総裁として復帰させるべきであり,ムンバが大統領補欠選のMMD候補者として登録できるというものでした。
この判決を受けて,ルピア・バンダは,大統領補欠選キャンペーンから撤退すると共に,エドガー・ルングを支持することを発表します。MMDが自由経済・民間企業重視であるのに対して,PFが社会民主主義的な経済政策を志向する傾向にあるため,両党は相容れないとされてきましたから,この発表はMMD支持者を驚かせました。ルピア・バンダの「変節」の背景には,ルングへの支持と引き換えに,自らの汚職問題訴追をルング新政権が取り下げることを条件にしたものとみなされ,多くの支持者に失望を与えました。
これを受けて,北部,北西部,西部,コッパーベルトの各州のMMD幹部が第二野党国家開発統一党(UPND)のハカインデ・ヒチレマ党首を支持する旨を発表し,MMDは分裂状態に陥っていきます。東部州においても,MMD議員が自発的にヒチレマ党首を応援し始めます。
5 大統領補欠選挙の結果
(1)与党と最大野党が上記のように党内抗争で混乱する中,90日間の選挙期間を有効に使ったのがUPNDのハカインデ・ヒチレマ党首でした。同党首は,2008年の大統領補欠選挙では総投票数の19.7%,2011年の総選挙では18.7%しか確保できませんでしたが,今回の選挙では,総投票数の46.67%を獲得しました。
同党首は,憲法改正,教員給与増と教育重視,財政規律維持,物価抑制,工業関連税制の適切化などを主張して,出身地の南部州だけでなく,与党PFの地盤であるルサカ州やコッパーベルト州でも善戦しました。
(2)一方で,分裂状態に陥ったMMDのムンバ総裁は,総投票数のわずか0.87%(1万4609票)しか獲得できませんでした。
(3)与党PFのエドガー・ルング候補が,80万7925票(48.33%)を獲得して,78万168票を獲得したハカインデ・ヒチレマ候補をわずか2万7157票差で破って第6代大統領に選出されました。
(4)なお,今回の大統領補欠選挙は,全国的に降雨で荒れ模様だったこと等が影響して,投票率は32.36%にとどまりました。これは2008年大統領補欠選挙の投票率45.43%と比べてもかなり低いものとなりました。
在ザンビア日本大使館
公使参事官 山地秀樹
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