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ザンビア便り 第16回 「ザンビアにおける国会議員補欠選挙」

 

 今回はザンビアの国会議員選挙,特に補欠選挙についてご紹介します。ザンビアの国会は一院制です。全国が150の選挙区に分けられており,すべて小選挙区制です。比例代表制のような仕組みはありません。それで,国会議員が150人かというと,実は158人います。というのは,ザンビアの憲法では,選挙で選ばれる議員の他に,大統領が8人までの議員を任命できるとされているからです。ちょっと変わっているのは,国会議長については,国会議員ではない人物を,国会議員が選挙で選出します。現在の国会議長は,国会議長に選出されるまではルサカ高等裁判所の判事を務めていました。

 

            ザンビア国会議事堂(外観)

 

 さて,現在(2013年6月7日)の国会の政党別議席配分は,次のようになっています。

 PF(愛国戦線)

  76(選挙選出議員68+大統領選任議員8)

 MMD(複数政党制民主主義運動)

  43

 UPND(国家開発統一党)

  30

 無所属・諸派

   4

            計

 153(定数158,欠員5)

 

  前回の国会議員総選挙は2011年9月に行われましたが,そのときの選挙後の議席配分は次のとおりでした。

 PF(愛国戦線)

  68(選挙選出議員60+大統領選任議員8)

 MMD(複数政党制民主主義運動)

  55

 UPND(国家開発統一党)

  28

 無所属・諸派

   5

            計

 156(定数158,欠員5)

(欠員2名は,選挙の直前に2つの選挙区で1名ずつ2名の候補が死亡したため,これらの選挙区では選挙が行われなかったからです。)

 

 議席配分について,総選挙後と現時点とを比べてみると,かなり変わっています。与党PFは68→76と8議席増え,MMDは55→43と12議席も減り,UPNDは28→30と2人増えています。諸派・無所属は5→4と1名減です。いったい何が起きたのでしょうか。

 

               ザンビアの国会

 

 答えは,補欠選挙が行われ,多くの場合に与党候補が勝って与野党の議席が入れ替わることが多かったからです。2011年9月の総選挙から現時点まで約1年9カ月の間に,何と12の選挙区で補欠選挙が行われました。なぜそのように頻繁に補欠選挙が行われるのかと言うと,それには政治的な理由と法律上,特に憲法上の理由とがあります。

 

 国会議員総選挙と同時に行われた2011年9月の大統領選挙でPFのサタ候補が当選した結果,PFは政権与党となりました。しかも,他の政党との連立ではなく,単独与党の政権です。しかし,選挙直後の国会における勢力としては,上表のとおり156議席(欠員2)のうち68議席しか占めておらず,対する野党(無所属・諸派を含む)は86議席で,与野党逆転の状態です。これでは国会運営は必ずしも容易ではなく,政策もなかなか思うように進められません。定数158の過半数は79です。そこでPFとしては,国会内の勢力を拡大して少なくとも過半数を制するため,野党議員の切り崩しを行い,与党に協力させたり,与党に党籍を移させたりするのに力を注ぐということが考えられます。実際,これまでかなりの数の野党議員が与党に移籍しています。与党に移籍するに当たって,副大臣職などの要職をオファーされることも多くあります。
 一方,野党議員の視点に立って見れば,一般的には,移籍して政権与党に属した方が様々なメリットが多いと考える野党議員がいても不思議ではないように思います。特に,第一野党であるMMDは,総選挙前までは20年間政権与党の座にあっただけに,政権与党に属するメリットを実感していた議員も多いのではないかと思われます。

 

 しかし,以上のようなこと(議員の政党移籍)は他の国でもあり得ることで,それだけでは直接には補欠選挙の実施には結びつきません。そこで登場するのがザンビアの憲法です。すなわち,憲法第71条には,「 選挙で選出された議員は,選挙の時点に所属していた政党から別の政党に移籍した場合には,議員を辞職しなければならない」との趣旨が定められているのです。(同様に,無所属であった議員が政党に所属した場合と,政党に所属していた議員が無所属となった場合についても,議員を辞職しなければならないと定められています。)これは,投票者が,候補者の能力や人柄だけでなく,所属政党をも考慮の要素として投票する場合を考えれば,合理的な考え方と言えるかもしれません。
 この点について,あるザンビアの議員とちょっと議論したことがあります。私は,日本では法律上,議員が党籍を変更しても辞職する必要はないが,候補者の所属政党は投票者にとって重要な判断材料なので,ザンビアの方が民主的ではないかと言うと,その議員は,特に(自分のように)投票数の9割もの支持を得て当選しているような場合は,候補者その人に対して有権者の大きな支持があるということを意味しているので,比例代表制ならともかく,政党を移籍したからといって議席を失うのは不合理で,日本の方が民主的だというのです。確かに,政策や考え方が極端に違う政党でなければ,政党の移籍は必ずしも辞職に値するほどの理由にはならないということも考えられます。他にも色々な論点があるかもしれません。

 

            国会で演説するために入場するサタ大統領

 

 補欠選挙が多発するもう一つの事情は,ザンビアでは,当選側の選挙違反等を理由に落選側が選挙無効を裁判所に訴えるケースが多いことです。裁判の結果,選挙無効の判決が下されることも多くあります。

 

 こうした理由や事情の故に,今のザンビアでは補欠選挙が数多く実施される結果となっています。総選挙後にこれまで行われた12回の補欠選挙について,補欠選挙が行われることになった理由は,5回は辞任(多くの場合,野党議員の与党への移籍),4回は選挙無効の判決,3回は死亡(現職議員の死亡ないし選挙直前の候補者の死亡)という具合です。

 

 補欠選挙は,それなりに費用がかかるので,このように多くの補欠選挙が行われることに対しては,批判もあります。ザンビアの選挙管理委員会は,一回の補欠選挙にかかる経費は選挙区にもよるが,少なくとも5百万クワチャ(日本円にして約1億円,クワチャはザンビアの通貨単位)はかかると述べています。確かに,財政が決して潤沢とは言えないザンビア政府にとって,補欠選挙の出費はばかにはならないと思います。それだけでなく,選挙戦のために政党や候補者が費やす費用や労力・エネルギーも相当に上ると思われます。
 見ているとかなり熱が入った選挙戦が展開されます。接戦が予想される選挙区では,与党は大統領,副大統領以下,多くの閣僚が入れ替わりに現地に乗り込んで応援を行います。野党は野党で,党首以下総出で現地の選挙戦を戦います。ある選挙区の補欠選挙では,与野党とも熱が入りすぎて,与野党の支持者どうしが衝突し,死傷者まで出る騒ぎになったケースもあります。

 

 これまで実施済みの12回に加えて,今月20日に1回,そして7月には4回の補欠選挙が予定されています。そのうち4回は辞任(野党議員の与党への移籍)によるもので,1回は選挙無効の判決によるものです(このため現在国会議員の欠員が5名生じています)。また,政党の移籍には至っていないものの,政権側からのオファーに応じて副大臣等の要職に就き,身分は野党所属のままで実質上与党側に与している議員も10人近くに上っており,これらの議員は,今後,所属野党から除名されたり与党に移籍したりする可能性もあるので,補欠選挙はまだまだ行わる可能性があります。ザンビアの内政を見るうえで,補欠選挙の動向からはなかなか目が離せそうもありません。

 

平成25年6月7日

駐ザンビア特命全権大使 江川明夫