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ザンビア便り第20回 「ザンビアのエメラルド」

 

 最近,ザンビアの新聞の一面に,アメリカの女優ミラ・クニスの写真が大きく掲載されました。ザンビアの新聞にも芸能欄があり,よくハリウッドの話題なども取り上げられますが,1面に載ることは普通ありません。ミラ・クニスがザンビアに来たのかと思いましたが,そうではなく,写真の説明文を見ると,彼女がザンビア産のエメラルドのイヤリングを付けていることを示す写真でした。

 

 

 ザンビアは世界屈指のエメラルド生産国です。最大の生産国は南米のコロンビアですが,ザンビアはコロンビアに次ぐと言われ,世界のエメラルド供給量の20%を占めています。一般にコロンビア産が質も最高とされているようですが,ザンビア産も決して劣らないとの声も聞きます。コロンビア産はインクルージョン(包有物)が多いのに対して,ザンビア産は純度の高いものが多いそうです。また,ザンビア産は一般に色がより濃く,透明度もより高いとのことです。コロンビア産は,油脂類を石に注入してあるものが多いとも聞きました。これは,微小な穴や割れ目をきっかけに色が悪化するのを防止するための加工だそうですが,一般にザンビア産はそのような措置を要しないとのことです。

 

 ザンビアのエメラルド生産額は年間100~200億円程度と言われています。ザンビアの国家予算が約8600億円,輸出総額が約8300億円であることを考えると,その経済的重要性がわかります。ザンビアのエメラルドは,主に,コッパーベルト州のカフブ地域で産出されています。3つの大手企業がほとんどの量を採掘しています。3つの大手企業のうち,最大手は英国系の会社ですが,ザンビア政府が25%出資しています。他にも多くの中小企業や個人が採掘しているようです。最近は,中国系企業の採掘への進出が目立つそうです。

 

 ザンビアは,銅をはじめとして,さまざまな鉱物資源に恵まれた国で,多くの外国鉱山企業がザンビアの鉱山で採掘・生産を行っています。いわゆる資源メジャーと言われる鉱山企業の多くがザンビアの鉱山に進出しています。ザンビアから日本への輸出品のナンバーワンは,携帯電話の部品にも使われるコバルトです。他方で,独立後50年を迎えようとしている今でも,鉱物資源の豊かさが国民全体の豊かさに必ずしも結びついていないのではないかという認識が,ザンビア政府・国民の間に高まっているのは事実です。豊富な鉱物資源にもかかわらず,極度の貧困層(1日1.25ドル以下の生活費で暮らす人々)が今でも国民の4割以上を占めています。
 このような認識は,エメラルドなど宝石類についても同様です。ザンビアは,エメラルドの他にも宝石を産出しており,中でもアメジストとアクアマリンの埋蔵量はアフリカで最大,アメジストは品質の点で世界最高の部類に属すると言われています。ザンビアの鉱山大臣は,もし宝石産業が適切に管理されれば,7億ドル(約700億円)の外貨収入が得られるはずであると述べています。現状では,違法採掘や密輸出などが問題とされているほか,国内で加工がほとんど行われずに輸出されている状況の改善も課題とされています。

 

 そこで,現在,政府は,鉱物資源からの利益がもっと国内に還元され,広く国民が潤うようにすることを目指した政策や施策を進めようとしています。政府が強く望んでいるのは,鉱物資源を未加工のまま輸出するのではなく,できるだけ付加価値化する,つまり,銅にしても,電線や銅板・銅管などの銅製品を製造・輸出する産業を振興し,経済を発展させることです。より短期的な施策としては,実施済みのものも含めて,例えば,ロイヤルティー(鉱業権料)の見直し,鉱産物輸出税の見直し,輸出入取引のモニタリング強化などがあります。
 宝石については,業界のモニタリングを強化したいとしていますし,従来は国外で行われていたエメラルド原石のオークションを国内で行うといった新たな措置をとっています。特に,小規模採掘者のための措置も検討されています。現在400ほどの小規模採掘者がいるそうですが,政府は,新たに約10億円をかけて,技術支援や組織化の支援を行うとしています。エメラルドなどの集積所を地方に設けて,小規模採掘者が,首都ルサカに出てこなくても石を販売ルートに乗せて収入を得ることができるようにする措置も検討されています。また,国内加工を強化するとともに,国際市場に通用する人材を養成するために,政府は,宝石加工・細工訓練センターを設置し,加工技術者の育成やマーケティングの訓練を行っています。
 こうした政策や施策の中には,鉱業会社側にとって負担増となりうるものもあるので,政府は,鉱業分野への投資は引き続き歓迎するし,鉱業会社が適切な利益を得られることが大事であるという点を強調しています。

 

 先日,あるエメラルドの加工場を視察しました。扱っているのはエメラルドだけではありませんが,ザンビアで唯一,採掘から加工,宝石・宝飾品としての販売まで行っている会社だそうです。国内販売はもとより,広く世界の市場に向けて販売しています。加工・宝飾技術者を数十人抱えており,工房で皆黙々と作業をしていました。上述の宝石加工・細工訓練センター出身者もいます。原石をどのようにカットするかに一番神経を使うそうです。

 

        エメラルド原石のカットについて思案中                     工房の様子

 

 日本でもザンビア産のエメラルドが販売されています。ザンビアから日本への輸出品の中で,宝石類は第5位のシェアを占めています(2012年の統計)。エメラルドを購入する機会がおありでしたら,ザンビア産をお試しになってはいかがでしょうか。

     

 

                                                            平成25年10月28日

                                                   駐ザンビア特命全権大使 江川明夫