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ザンビア便り 第14回 「ザンビアの昆虫食」

 

 ひと月ほど前、当地の報道でちょっとおもしろい記事がありました。ザンビア北部のとある村の小中学校で、児童生徒がこぞって授業をほったらかしにして森へイモムシ獲りに行ってしまったというのです。338名の子どもたちのうち300名が授業に出ず、両親のイモムシ獲りの手伝いをしに行ったということです。イモムシの多い時期なのでしょうか、この村ではイモムシが大量に発生していたそうです。(ザンビアの学制では日本の小学校と中学校の一部を合わせたものに相当する基礎学校と呼ばれる学校があるのですが、ここでは小中学校としておきます。)
 日本では伝統的に、イナゴや蜂の子など昆虫の類が、地域にもよるでしょうが、食されています。ザンビアでもイモムシ、羽アリ、そしてバッタ(イナゴも含む)などの昆虫が食されていますが、国内の広い地域で当たり前の食物となっています。イモムシも色々と種類があって、毛(毛虫の毛)がなく緑色のものが美味だそうです。イモムシが木の葉にいるのを獲るのですが、大量にいる場合は枝ごと切り落としたりするそうで、大きな枝や木そのものを切るのは森林破壊につながると指摘する声もあります。イモムシ、羽アリ、バッタ、いずれも乾燥したものが市場などで一般的に販売されていますし、食事処のメニューにも登場します。蜂の子やセミも食べる地方があるそうです。
 件(くだん)の学校の子どもたちの両親は、獲ったイモムシを買い取り業者に売るのが主目的のようで、5リットルの容器入りで15,000~20,000クワチャ(日本円にして240~320円くらい)の値段で業者が引き取るそうです。こうして得た現金収入のおかげで多くの村人が今年は贅沢にクリスマスと新年を祝うことができるだろうと、記事は結んでいます。業者が引き取ったイモムシは都市部などで販売されることになります。ルサカの市場や露天商などで販売されているだけでなく、近代的なスーパーマーケットでも袋入りの乾燥イモムシが売られているのを見ました。ある食材店では一山10,000クワチャ(日本円で160円くらい)で売っていました。乾燥させるときに内臓は除去します。
 イモムシ獲りで気を付けなければならないのは毒ヘビです。ザンビアには猛毒を持つコブラやマンバがいます。ヘビもイモムシを好むのだそうです。

 

食材店(下段奥にイモムシ)

イモムシ一山約160円

 あるときザンビアの初代駐日大使を務められた方のご自宅に招かれた際、イモムシを味わう機会がありました。色々な種類のザンビア料理でおもてなしを受けたのですが、イモムシは食前のおつまみという感じで置かれていました。おそるおそる口にしてみましたが、今、その味を思い出そうとしてもどんな味だったか記憶がよみがえってきません。初の経験でよほど緊張していて味わうどころではなかったのかもしれません。

 

おつまみ風のイモムシ

 

 羽アリは、今の雨季、雨上がりに大量に発生し、街灯などにたくさん群がっているのをどこでも見ます。なぜ雨上がりに出てくるのかよく知りませんが(日本では雨上がりの温暖多湿のときに多いと言われているようです)、雨が降ると地面が柔らかくなり、羽アリがアリ塚などの地下から地上に出てきやすくなるという話を聞きました。羽アリの捕獲方法は色々とあり、羽アリは水に落ちると飛べなくなることから、羽アリの出てくる場所に水入りのバケツを置くとか、やはり水の入った容器に照明を付けた装置とかがあるそうです。羽アリもまたヘビの好物だそうで、羽アリ獲りの際も毒ヘビに注意しなければなりません。一般的には羽をむしって油で炒めて食べます。ある日の公邸での夕食会の席、前夜はテラスに無数の羽アリがいたという話をしたら、昨晩招待してくれればよかったのにと半ば真顔で言ったザンビアの客人がいました。よほど大好物のようです。確かに、多くの人に聞くと、特に羽アリとイモムシは、ザンビアの人々にとって普通の食べ物という以上に、美味のごちそうとされているようです。
 バッタは主に5月~7月頃の乾季に獲られると聞きました。種類によっては雨季に獲られるものもあるようです。バッタの一種であるイナゴも食されています。捕獲は、朝の涼しい時間帯にバッタがあまり動かないうちに獲るとかの工夫があるそうです。肢と翅をとったものを油で炒めて食べるのが一般的ですが、中には、獲りたてのを翅と肢をむしって塩をふってそのまま食べるなどというつわものもいます。
 さて、上に記したとおりイモムシは食べたことは食べたのですが味が思い出せません。そこで、今回、あらためて食べてみることにしました。大使館事務所の近所にある食事処からイモムシ、羽アリ、バッタの3種をテイクアウトしました。イモムシは油で炒めたもの、羽アリとバッタは油なしで炒ったもののようです。イモムシは、外皮が結構固く、噛みがいがあります。味は、なかなか形容しがたいのですが、ちょっと煮干し(ダシをとるあれです)に似ていると言えるかもしれません。ほんのりと苦みも感じました。羽アリは、小エビの干したもののような味わいです。バッタは、小エビのようでもあり、煮干しや干した小魚のようでもありました。

 

大使館近所の食事処

調理前の羽アリ

イモムシ

羽アリ

バッタ

 

 私の手元に、ある方からお借りしたザンビア料理の本があります。これを見ると、スープ、肉料理、野菜料理、魚料理、飲み物などの項目に分かれて190種類ほどの料理とレシピーが紹介されています。昆虫料理という項目はないのですが、昆虫の料理も出てきます。まず、スープではイモムシのクリームスープというのがあります。獣肉料理の項目には、インパラなどのアンテロープの類、ウサギ、ネズミなどのほかに、(なぜ獣肉の項目に分類されているのかはわかりませんが)イモムシ料理が3種類出ています。スナック類の項目には、イナゴ、羽アリ、イモムシが載っています。これらの昆虫は料理本にも載るような一般的な食材であることがうかがえます。

 

ザンビア料理の本

 

平成24年12月20日

駐ザンビア特命全権大使 江川明夫