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ザンビア便り第9回 「ザンビアの国境ポスト」

 

 ザンビアは海に面していない内陸国であり、周りを取り囲む8カ国と国境を接しています。8カ国との国境線の要所要所に、出入国管理、税関など人や車両、物品の出入りを管理するための事務所が置かれていて、通常、「国境ポスト(border post)」と呼ばれています。
 日本は海に囲まれているのであまりピンときませんが、内陸国で陸続きの国境を抱えているがゆえの課題や問題が生じます。例えば、ザンビアの周辺では紛争や混乱が続いた国もあり、このためザンビアに大量に難民が流入したり、周辺国から大量に流入した銃器を使った犯罪が多発したりしています。外国との物資の輸出入の大部分を鉄道やトラックで行うので、周辺国と通じる交通網の整備がたいへん重要な課題となります。また、ヨーロッパやアジアから船で輸送される物資は、南アフリカやタンザニアの海港にまず到着し、それから陸路でザンビアに運ばれるので(逆に輸出の場合も同様)、輸送コストがかさむということもあります。例えば、ルサカから南アフリカのダーバン港、タンザニアのダルエスサラーム港まではいずれも2000キロ前後と、日本であれば青森から鹿児島くらいの距離があります。
 他方で、内陸国であるという特徴をプラスの方向に活かすこともできます。海に隔てられていないということは、逆に、周辺国との間で人と物の出入りが容易だということです。しかも、ザンビアは、地理的に南部アフリカの中心部に位置し、この地域の東西、南北を結ぶ要衝の地に当たります。すなわち、東はインド洋岸のタンザニア、モザンビークから西は大西洋岸のアンゴラ、ナミビアまでの東西の線、北はコンゴ(民)から南はジンバブエ、ボツワナからさらに南アフリカまでの南北の線、これら東西南北の線が十文字に交わる中心がザンビアです。南部アフリカでは地域協力が進展しており、この地域全体としての発展を考える機運が高まっていますが、ザンビアはその地理的位置から、この地域の交通・輸送網のハブとしての役割を果たしうる存在です。
 アフリカでは今、一国内にとどまらない広域にわたる経済開発を進める取り組みが行われています。アフリカ大陸は広大で、ザンビアのように海に面していない国もたくさんありますし、海がある国でも内陸に奥深く広がっている国もあります。こうしたアフリカ大陸の内陸部には資源が豊富に存在しています。内陸国から国をまたいで拠点となる海港へとつながる運輸幹線を、道路・鉄道・港湾をひっくるめて「回廊」と呼んでいますが、回廊における運輸インフラを整備し、併せて内陸国や沿岸国内陸部の回廊周辺における資源開発や各種産業の振興を図り、広域にわたる経済開発を進めるという構想が、「開発回廊」とか「経済回廊」と呼ばれる構想です。こうした構想に基づく取り組みが、AU(アフリカ連合)を中心に、南部アフリカだけでなくアフリカ大陸全体にわたって進められており、多数の回廊が特定されています。ザンビアにとって重要な回廊は、タザラ回廊(ザンビアからタンザニアのダルエスサラーム港に至る)、ムトワラ回廊(ザンビアからマラウィを経てタンザニアのムトワラ港に至る)、ナカラ回廊(ザンビアからマラウィを経てモザンビークのナカラ港に至る)、南北回廊(ザンビアからジンバブエ又はボツワナを経て南アフリカのダーバン港に至る)、ロビト回廊(ザンビアからアンゴラのロビト港に至る)などです。

図1 南部アフリカの回廊


ここをクリックすると拡大図が見られます)
出典:国際協力機構ほか作成「南部アフリカ成長ベルト広域プログラム準備調査ファイナルレポート」(2010年)

 また、このような回廊上に位置する国境での人と物の通過をより効率的にする取り組みも行われています。普通、こうした国境の通過には、A国側で出国手続きをした後、B国側に入って入国手続きをするというように出入国のために2回の手続きが必要です。これを1回で済むようにする仕組みが、ワンストップ・ボーダー・ポスト(OSBP: One Stop Border Post)で、アフリカ各地の回廊上に位置する国境でOSBPの整備が進められています。ザンビアも周辺国との国境でOSBP化を進めつつあります。
 日本は、アフリカの回廊における運輸インフラ整備やOSBP設置による広域インフラ開発をODA(政府開発援助)により重点的に支援しています。2008年に横浜で開催されたTICAD IV(第4回アフリカ開発会議)で策定された横浜行動計画においても、道路及び港湾を含む広域運輸インフラの整備と通関手続の円滑化を進めることが謳われています。OSBPについては、日本はこれまでアフリカ各地10カ所の国境ポストについて、施設の建設や税関の業務能力の向上などの協力を行っています。
 ザンビアにおいては、ジンバブエとの間のザンベジ川に架かるチルンド橋の建設(2002年に開通)と同地におけるOSBP化に協力しました。チルンドは南北回廊上の要所に当たるザンビア側の町の名前ですが、日本の協力により南北回廊の輸送が大きく円滑化されています。チルンドでは、草の根・人間の安全保障無償資金協力によりバスターミナルの整備にも協力していて、こちらも間もなく竣工の予定です。
 ボツワナとの国境でもザンベジ川に橋を建設する計画があり(カズングラ橋)、OSBP化も含めて日本の協力が検討されています。ザンベジ川はザンビアとこれら両国とを隔てる大河で、橋のないカズングラ(ザンビア側の町の名前)は南北回廊の重要な国境であるにもかかわらず、現在、ポンツーンと呼ばれる艀による通行しか手段がありません。ポンツーンにはトラック1台と乗用車4台ほどしか乗せられないので、効率は決してよくありません。このため、物資を満載した沢山のトラックが国境で何時間も場合によっては何日も通過待ちをするという状態となっています。大雨で川が増水してポンツーンが流されてしまうという事態もこれまでたびたび生じています。カズングラ橋ができれば南北回廊の物流が飛躍的に円滑化されることになります。


ボツワナからザンビアに到着したポンツーン

 先般、コンゴ民主共和国との国境にあるカスンバレッサ国境ポストを視察する機会がありました。カスンバレッサは、コンゴ側の町の名前ですが、ザンビアからコンゴ民主共和国を経てアンゴラのロビト港を結ぶ輸送の動脈、ロビト回廊上に位置する重要な国境ポストです。ロビト回廊はザンビア内で南北回廊とつながっていて、まさにザンビアがハブの位置にあります。カスンバレッサでは、今年建設された真新しい国境ポストの施設が稼働しています。コンゴ側にも同様に新しい施設が建設の最中でした。出入国管理や税関事務を行う建物のほかに、レストラン、売店などもあり、日本の高速道路のサービスエリアのような感じです。
 この国境ポストの建設・運営は、BOT方式(注)により第三国の民間事業者が行っています。出入国管理や税関といった国の行政事務そのものはザンビア政府の出先機関が行っていますが、事業者は、そうした国の機関が使用するための建物・諸設備、コンピュータのシステム、監視カメラシステム等全体の建設・整備を実施し、また、トラック等車両の出入管理等も行っています。車両の通過料が徴収されますが、これが事業者の収入となる仕組みとのことです。二国間協定の合意ができていないのでまだOSBPとして機能してはいませんが、従来に比べて、車両の出入国に要する時間が大幅に短縮されているそうで、以前は国境通過に何日も待たされることもあったそうですが、現在では最短で35分とのことです。それでも、国境ポストの手前の道にはトラックが何十台も列を作って待っているのを見ました。それだけ物資輸送量が多いのです。
 今後、ザンビアと周辺8カ国との主要な国境ポストが順次整備され、OSBP化されていき、将来ザンビアが地域の運輸交通のハブとなることを期待しています。


カスンバレッサ国境ポスト:
手前は出国を待つトラック、奥は入 国したトラック
遠景に見えるのはコンゴ側で建設中の国境ポスト の建物

(注)BOT(Build, Operate, Transfer)方式とは、政府や地方自治体の公共施設等について、民間事業者が施設等を建設し、維持・管理及び運営し、一定の期間を経た後に、政府や地方自治体に維持・管理・運営を引き継ぐ事業方式のことで、いわゆる民活の一つの形態です。

 

平成23年11月10日

駐ザンビア特命全権大使 江川明夫