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ザンビア便り第7回 ザンビアの大統領選挙(その2)
今回は、大統領選挙と国会議員選挙について結果を少し分析してみたいと思います。
ザンビアは大統領制で、大統領は国民の直接選挙によって選出されます。国会は一院制で、定員は158名です(うち150名は選挙によって選出され、8名は選挙を経ずに大統領が任命します)。全国は150の選挙区に分かれています。大統領については、全国の合計票で最大得票を得た候補者が当選となります。国会議員については、小選挙区制で、各選挙区で最大得票を得た候補者が当選となります。
<ザンビアの9州>
【地域ごとの投票傾向】
ザンビアの政党については前回書きましたが、MMD(複数政党制民主主義運動)、PF(愛国戦線)、UPND(国家開発統一党)が3大政党です。MMDは地方部、組織労働者、企業家などを、PFは都市部の労働者層を主な支持基盤としています。また、第3党のUPNDはヒチレマ党首の出身州である南部州を基盤としています。
今回の選挙結果で際だって特徴的なのは、地域によって各政党の得票傾向が著しく異なることです。ザンビアは9つの州に分かれていますが、今回の大統領選挙での得票率は以下の表1のとおりでした。
<表1 大統領選挙における州別得票率>
州 |
得票率 (%) |
得票数 |
||
サタ(PF) |
バンダ(MMD) |
ヒチレマ(UPND) |
||
中央州 |
28.1 |
48.7 |
20.7 |
227,683 |
コッパーベルト州 |
67.7 |
26.1 |
3.6 |
504,551 |
東部州 |
18.3 |
71.8 |
3.3 |
325,168 |
ルアプラ州 |
73.1 |
22.8 |
1.0 |
207,845 |
ルサカ州 |
55.8 |
30.1 |
11.3 |
403,669 |
北部州 |
63.7 |
32.0 |
1.0 |
380,743 |
北西部州 |
10.8 |
50.1 |
35.1 |
173,759 |
南部州 |
6.6 |
19.0 |
71.0 |
375,675 |
西部州 |
22.9 |
32.9 |
28.0 |
190,247 |
全国 |
42.0 |
35.4 |
18.2 |
2,789,340 |
この表を見ると、各候補は出身地・地元で大きな支持を得ていることがわかります。サタ候補は北部州、バンダ候補は東部州、ヒチレマ候補は南部州の出身ですが、各出身州ではそれぞれダントツの1位となっています。
サタ候補は大票田であるコッパーベルト州とルサカ州を制しています。コッパーベルト州は銅を中心とした鉱業の盛んな州で、都市化も進んでいます。ルサカ州は首都ルサカを抱えており、PFが都市部に強いことを示しています。
バンダ候補は、東部州のほか、中央州、北西部州、西部州で1位ですが、PFと比較してMMDが地方に強いことを示しています。しかし、地方でもルアプラ州はサタ候補が圧倒的な1位となっています。ルアプラ州は、北部州、コッパーベルト州とともに、サタ候補の出身部族であるベンバ族が主に居住している地域です。
ヒチレマ候補は南部州以外では、北西部州、西部州でサタ候補を抜いて2位となっています。
次に国会議員選挙の結果を表2で見てみましょう。まず、党派別獲得議席数では今回PFが43から60へと17議席増で大きく伸ばし、MMDは72から55へと17議席減で大きく減りました。UPNDは3議席増と少し増やしました。
<表2 国会議員選挙における政党別獲得議席数>
政党 |
選挙後議席数 |
選挙前議席数 |
増減 |
PF |
60 |
43 |
△17 |
MMD |
55 |
72 |
▼17 |
UPND |
28 |
25 |
△3 |
諸派・無所属 |
5 |
10 |
▼5 |
合計 |
148 |
150 |
(注)選挙後議席数の合計が150になっていないのは2選挙区で候補者の死去により選挙が実施されなかったため。
また、国会議員選挙における州別、政党別の獲得議席数は以下の表3のとおりです。
<表3 国会議員選挙における州別・政党別獲得議席数(カッコ内は選挙前)>
州 |
議席数 |
PF |
MMD |
UPND |
諸派・無所属 |
中央州 |
14 |
3( 0) |
9(12) |
2( 2) |
0( 0) |
コッパーベルト州 |
22 |
18(17) |
4( 5) |
0( 0) |
0( 0) |
東部州 |
19 |
2( 0) |
14(16) |
0( 0) |
3( 3) |
ルアプラ州 |
14 |
13( 9) |
1( 4) |
0 (0) |
0( 1) |
ルサカ州 |
12 |
8(7) |
4( 4) |
0( 1) |
0( 0) |
北部州 |
21 |
15(10) |
4(10) |
0 (0) |
1( 1) |
北西部州 |
12 |
0( 0) |
9( 8) |
3( 4) |
0( 0) |
南部州 |
19 |
0( 0) |
1( 0) |
17(17) |
0( 2) |
西部州 |
17 |
2( 0) |
8(13) |
6( 1) |
1( 3) |
合計 |
150 |
60(43) |
55(72) |
28(25) |
5( 10) |
大統領選挙と同じような傾向が見て取れます。つまり、PFはコッパーベルト州、ルアプラ州、北部州で非常に強く、MMDは中央州、東部州、北西部州、北部州で非常に強いことがわかります。UPNDは南部州で圧倒的な強さです。大統領選挙と同様に、大統領候補の出身州ではその候補の党が非常に強いことがわかります。
今回の選挙では、PFが北西部州と西部州以外のすべての州で議席を増やしています。特に、これまで議席の無かった中央州、東部州、西部州でも議席を獲得しています。MMDについては、逆に、3つの州を除いて議席を減らしています。PFはほぼ全国的に上げ潮に乗り、MMDはほぼ全国的に退潮であったと言えます。
大統領選挙、国会議員選挙ともに、地域(州)によって各政党の得票傾向が大きく違う理由については、色々とあり得るかと思いますが、一つには、部族制の伝統もあり大統領候補は出身州・出身部族においては絶大な人気を持っていること、そして、国会議員選挙が大統領選挙と同時に行われるため、国会議員選挙における政党支持傾向は大統領候補への支持に引っ張られるというようなことがあるかもしれません。
【1票の重みの地域格差】
ザンビアでも、いわゆる票の格差の問題が存在します。選挙区ごとに有権者数、登録有権者数にかなりバラツキがあるので、選挙区によって国会議員一人当たりの有権者数、者登録有権者数にかなりの違いが生じ、1票の重みに格差が出てしまうのです。なお、大統領選挙については、全国の票が集計されて当落が決まるので、こうした問題は生じません。
今回の選挙で、登録有権者数でみた最大の選挙区は、ルサカ州マンデブ選挙区で108、978人でした。同じく最小の選挙区は、北西部州ザンベジ西選挙区で登録有権者数10,206人でした。約10倍の開きがあります。実際の投票者数でみても、マンデブ選挙区では56,936人、ザンベジ西選挙区では5,006人と、やはり10倍以上の開きがあります。マンデブ選挙区は、首都ルサカ市の北方に当たり、首都圏で人口が密集した地域です。ザンベジ西選挙区は、国の西端にあり、アンゴラと国境を接する辺境の地です。選挙区当たりの有権者数、登録有権者数は、大都市圏で大きく、地方で小さいという傾向が見られます。国会議員選挙における実際の得票数を見ると、最大得票で当選したのは、ルサカ州マテロ選挙区のPF候補が36,295票、最小得票で当選したのではルアプラ州パムバシェ選挙区のPF候補が2,459票と、15倍近い差です。
なお、日本の場合、例えば、2009年の衆議院議員選挙のときには、選挙名簿登録者数で最も大きい選挙区は千葉4区の489,437人、最も小さかったのは高知3区の212,376人で、格差は2.3倍でした。
ザンビアの場合、1票の重みの問題を人口比の観点だけで考えるのは難しいのではないかと思います。都市部と地方部、あるいは都市化の進んだ州とそうでない州の人口集中度が大きく異なるので、人口比だけで選挙区を割り振ると、都市部と地方部で極端な代表数(国会議員数)の差ができてしまうからです。しかも、ザンビアは1院制ですので、2院制の場合のように、一つの院については人口比に基づかない選挙区割や選出方法とするといった工夫の余地もありません。憲法上、各州に最低限10の選挙区を設けなければならないとされている背景には、1院制の下で各州間あるいは都市部と地方部とのバランスを取るという観点もあるものと考えられます。
以上、今回の選挙結果についての若干の分析を試みました。次回のザンビア便りでは、ザンビアにおける選挙の実際について、選挙監視活動を通じての観察などをお伝えしたいと思います。
平成23年10月17日
駐ザンビア特命全権大使 江川明夫
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