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ザンビア便り第6回 ザンビアの大統領選挙(その1)

 

 去る9月20日、ザンビアで大統領選挙が行われました。選挙の結果、与党の候補が破れ野党の候補が勝って、政権交代が実現しました。
 大統領の任期は5年で、大統領総選挙は原則として5年ごとに行われます。ザンビアの人口は約1300万人、このうち18歳以上の有権者数は約600万人で、人口の約47%となります。ちなみに、日本で政権交代をもたらした2009年の総選挙では、有権者数が約1億0395万人でした。当時の日本の人口は約1億2750万人ですので、人口の約82%が有権者ということになります。人口構成において、ザンビアでは若年層が多く、日本ではいかに少ないかということがわかります。
ザンビアでは選挙権を行使するために事前に有権者登録をする必要があり、今回の選挙に当たって約517万人が登録しました。今回の投票総数は約279万票で、投票率は約54%でしたが、特筆すべきは、前回2008年の選挙時に比べて有権者登録数が123万人も増えたことです。選挙委員会が中心となって有権者登録を増やす努力をした結果で、この努力は賞賛に値します。いかに選挙が適切に行われようとも、有権者登録数が少なければ、選挙の結果が本当に民意を反映しているかという点に疑問符が付きかねません。
 ザンビアには多数の政党があり、今回の大統領選挙にも10政党が候補者を出しましたが、MMD(複数政党制民主主義運動)、PF(愛国戦線)、UPND(国家開発統一党)が3大政党と言えます。MMDは、ザンビアが複数政党制に移行し、民主主義政治を本格化させた1991年以来ずっと大統領を出し、20年間政権与党の座にありました。それが今回、野党第一党のPFに政権の座を明け渡すことになったわけで、ザンビアの政治史に残る歴史的な政権交代と言えます。なお、今回は、大統領選挙のほかに、国会議員選挙と地方議会議員選挙も同時に行われましたが、国会でもこれまでの与野党の勢力分布が入れ替わり、PFが最大勢力を占める結果となりました。
 前回の大統領選挙は2008年に行われましたが、この選挙は、当時現職の大統領が急逝したために行われた臨時の選挙でした。副大統領職にあった与党MMDのバンダ候補が当時も野党第一党であったPFのサタ候補を破り、大統領に就任しましたが、得票率の差はわずか2%という接戦でした。今回も現職のバンダ候補とサタ候補の一騎打ちで、事前から接戦と見られていましたが、得票率の差約7%でサタ候補の勝利に終わりました。
 サタ候補は老練の政治家です。もともとMMD所属で90年代には大臣を歴任し、1996年からはMMD幹事長の要職にありました。しかし、2001年の大統領選挙に当たって、サタ氏はMMDと袂を分かちPFを設立して大統領選に立候補しました。そのときは11人の候補の中でも7位、得票率2%という惨敗でした。サタ党首はその後も2006年、2008年と大統領選挙に立候補しましたが、いずれも2位でMMDの候補に敗れています。今回は4度目の挑戦でしたが、PF結党10年にして政権の座を射止めました。
 MMDとPFはこれまでも与野党として事あるごとに対立してきましたが、今回の選挙戦も白熱しました。両党それぞれマニフェストを出し、論戦も盛んでした。バンダ候補は、経済の高成長や外国からの投資増大といった実績を強調しつつ引き続き経済社会開発を進めるという点を主に訴え、サタ候補は、初等・中等教育や医療費の無料化、社会保障の強化といった点に力を入れました。
 今回の選挙で注目していた点は主に2つあります。一つは、選挙が民主的に公正に行われるかという点、もう一つは、暴動などが起きずに選挙が平和裏に行われるかという点です。一般的に、こうした点は、その国の民主主義の成熟度を示すものと言えます。ザンビアは民主主義が根付いた国として評価が高く、1991年の複数政党制移行以来のこれまで5回の大統領選挙はいずれも概ね公正に行われ、また、暴動などによる混乱も起きていません。それでも、仮にこうした点で今回の選挙に大きな傷が付くことになれば、独立後まだ50年を経ない若い国であるザンビアの国家としての安定が揺らぐおそれすらあるので、ザンビアの国内でも、選挙が公正に平和裏に行われるかという点に大きな注目が集まっていました。諸外国や国際機関もこれらの観点から今次大統領選挙に注目し、多数の国際的な選挙監視団がザンビアに集まりました。日本も大使館員が選挙監視を行いました。
 結果から言えば、選挙は民主的に公正に行われ、実施上の大きなトラブルはありませんでした。若干の小競り合いなどはありましたが、大規模な暴動などの混乱はなく、平和裏に無事に選挙が終わりました。選挙後の情勢も概ね平穏に推移しています。敗れたバンダ大統領の退任演説は、潔く敗北を認めつつ勝者に祝意と期待を述べ、国民に団結を呼びかけ、また、民主的な政権交代を擁護し、ザンビアの民主主義を守ろうという決意がにじみ出ていて、真の政治家(ステーツマン)らしい格調高い演説だったと思います。今回の選挙、そして政権交代によって、アフリカにおける民主主義と平和の「オアシス」と言われるザンビアの名声がさらに高まることになりました。


<PFの旗を掲げ新大統領の就任を祝う街の人達>

 9月23日に、大統領就任式が行われました。日本大使館のほど近く、最高裁判所の敷地で行われましたが、就任を祝うために集まった群衆で敷地が埋め尽くされました。式は最高裁判所長官の立会の下、サタ新大統領が大統領として憲法を遵守するとの宣誓を行うとともに、バンダ前大統領から英語で“instruments of power”と呼ばれる品を引き継ぎました。日本語にすると、「統治権の道具」とでも言ったらよいでしょうか。三種の神器みたいですが、中味は、憲法とオレンジ色の旗です。オレンジ色の旗は国の富を象徴するもので、大統領として国の富を守るという意味が込められているそうです。なぜオレンジ色かというと、ザンビアの富の大きな源泉である銅の色からきているそうです。就任式にはザンビア建国の父カウンダ初代大統領も立ち会いました。サタ大統領は、就任演説を行い、その冒頭で、平和裏に秩序ある政権交代を行ったバンダ大統領への謝意を表明しました。
 次回のザンビア便りでは、選挙の結果について少し分析を加えてみたいと思います。

 

 

平成23年10月6日

駐ザンビア特命全権大使 江川明夫